Wakakusa
Write Ruby. Ship native.
Wakakusa(若草)を使うと、Ruby で書いたデスクトップアプリを 1 本のネイティブバイナリとしてリリースできます。CRuby で動かしたものが、そのまま配れます。同じかどうかは wakakusa gate で確かめます。リリースするときは、事前コンパイル方式の Ruby コンパイラ spinel が Ruby を C に変換し、描画エンジン(Zed エディタを支える gpui)ごと 1 本のバイナリにします。作っているあいだは、同じファイルを本物のインタプリタ(CRuby)が動かします。その二つを wakakusa gate が同じスクリプトで動かし、描いたものを一バイトずつ突き合わせます。アプリは普通の Ruby のクラスで、若草が足すのは画面を組み立てる text、button、column といったメソッドと、二つの実行が同じであることを確かめる仕組みです。
全体像
一つのソースを、二通りのやり方で走らせます。
どちらの走らせ方も、C ABI の向こうにある一つのエンジンを動かします。 インタプリタ側はそれを共有ライブラリとして開き、コンパイルされた側は静的なほうをリンクします。 エンジンは Ruby のオブジェクトを持ちません。 だから、インタプリタとコンパイル済みのバイナリが、まったく同じコードを動かせます。
どんな見た目になるか

demo/ledger.rb。
データベースに置いた家計簿です。
値は SQL に直接書かず ? で渡し、合計を棒グラフにしています。
普通の Ruby で書かれ、一つのネイティブバイナリになります。
書いて、動かして、配る
いちばん小さいアプリの全文がこちらです。
require "wakakusa"
class Counter
def initialize
@count = 0
end
def view
column(spacing: 12.0, padding: 16.0) {
text "count: #{@count}", size: 34.0
button("+1") { @count += 1 }
}
end
end
run(Counter.new, title: "counter")
アプリはオブジェクトです。
状態はそのインスタンス変数で、view は要素を一つ返し、ハンドラは、そのオブジェクトがそのまま見えるブロックです。
継承するものも、登録するものも、監視の対象だと印を付けるものもありません。
これでウィンドウが開き、ファイルの監視が始まります。
書き換えて保存すると、その変更がウィンドウに反映されます。
ファイルが読み直され、ウィンドウが持っているオブジェクトは、それまでの値をすべて保ったまま新しい view を返します。
そのオブジェクトの initialize は走り直しません。
状態が生まれるのはそこなので、走り直さないことに意味があります。
リリースします。
$ ./bin/wakakusa build demo/todo.rb --release --app
built: demo/.gate/todo (12.3 MB)
bundle: demo/dist/todo.app (12.5 MB)
not gate-checked — `gate` with a script proves the two runs agree
バイナリはエンジンとコンパイル済みの Ruby を含んでいて、システム自身のライブラリ以外は何もリンクしません。 受け取る人は、Ruby もコンパイラも入れずに開けます。
「私の環境では動いていた」
操作の手順を渡すと、CRuby の実行とコンパイルされたバイナリの両方でそれを再生し、出てきた画面を突き合わせます。 若草はこれをゲートと呼んでいます。
インタプリタ側の実行は CRuby そのものです。 だからゲートが通れば、リリースするバイナリが、スクリプトの触れた範囲では本物のインタプリタと一致したということです。 二つが同じにならない数少ない点は、理由とともに二つの実行に挙げてあります。
Ruby 自身のライブラリが、どちらの実行でも
File、Dir、JSON、CSV、Time、Math、Net::HTTP、ソケット、スレッド、Enumerable のメソッド。
どれも Ruby 自身のライブラリで、そのまま書けます。
これを若草のライブラリで置き換えてはいません。
ただし実際に答えているコードは、片方が CRuby の実装、もう片方がコンパイラの実装です。
その二つが同じ答えを返すことを確かめるのが、ゲートです。
書ける Ruby がどこまでかは、三つの Rubyにまとめてあります。 CRuby は Ruby のすべて、spinel は事前コンパイルできる範囲、若草はそこからさらに五つの形を引いたものです。
データベースだけは例外です。 どちらの実行も同じファイルを同じように読まなければ、意味がないからです。
sqlite_exec(DB, "INSERT INTO expenses VALUES (?, ?, ?)", [name, yen, cat])
rows = sqlite_rows(DB, "SELECT name, amount FROM expenses ORDER BY rowid")
移植した二つのゲーム
Pyxel 自身の例(Takashi Kitao、MIT)が二つ、デモに入っています。 ほぼ一行ずつ移してあります。 ドット絵のキャンバスも、毎秒三十コマという速さも、押しっぱなしのキーの読み方も同じです。 キー操作とコマ送りを書いたスクリプトで二つの実行を動かすので、ゲートはゲームの全コマを突き合わせます。
demo/shooter.rb と demo/jump.rb。
キャンバスの中では色が番号、つまり palette の何番目かなので、ドット絵の環境のために書かれた描画コードが、数字を書き換えずにそのまま移せます。
エージェントが書くとき
エージェントはファイルを書き、返ってきたものを読みます。 だから、返ってくるものがその作業の進み方を決めます。 三つのうち二つは 1 秒かからずに答え、コンパイラもウィンドウも要りません。 何をどう直せばいいかまで書かれた断りと、文字になった画面です。 ゲートは、最後に確かめるためのものです。
エージェントと作るに、この流れをひととおり書いてあります。
ほかに入っているもの
-
要素の表は一つだけ
33 個の要素と、共通のキーワード 15 個を
elements.tomlに一度だけ書きます。アプリが呼ぶ Ruby も、エンジンが数える番号も、その定数も、そこから生成されます。だから一つの要素が二つの意味を持つことがありません。 -
キャンバスと、キーボード
仮想的な画素の格子を、命令をひとつずつ並べて塗ります。色は palette の番号、キーが押されているかどうかはタイマーの中で読み、効果音は
audio_playで鳴らします。ウィンドウを開かずに、どのコマも PNG に書き出せます。 -
直し方まで出る断り
コンパイラが受け取れない書き方は、コンパイラが起動するより先に断ります。エラーには、その行と、代わりにどう書くかが出ます。
次に読むもの
名前は松江の三大銘菓のひとつ、若草からとりました。羊羹と同じく、和菓子の名前です。